セカンドインパクトなるものが発生してから、15年が過ぎた。
現在でも何が起こったのか判明していないが、
全世界の政治、経済、産業、その他、すべてが白紙の状態になってしまった。
貧富の差は瞬く間に拡大し、ごく少数の支配層が国や人種を超えた、
新たな社会を形成したのだった。
これはそのような時代に出逢った、少年と少女の物語である。
The Island of Eden 〜 第3話 〜 |
その一言はシンジと少女が運命の出会いであったことを証明していた。
「可愛い子だったな…」
長い髪の毛は手入れがされてはいなかったけど、
その髪の間に見えた少女の顔はシンジにはとても魅力的に映ったのだ。
怒ったような、悪戯っぽいような、真っ直ぐにシンジを見据えた、
その眼差しに惹きつけられたのである。
「もう一度、会いたいな…」
その時、シンジは生まれて初めて自分で考え決断した。
常に選択肢を与えられ、その中から答えを見つけてきたシンジが、である。
行方不明となってしまった御付きの3人が、このときのシンジを見れば涙にむせいだことだろう。
シンジは立ち上がって、少女が姿を消した方角へ歩き出した。
闇雲に歩くわけではなく、あの少女を探したいという意志を持って歩き出したのだ。
いくらシンジが意志を持って進もうと、簡単に探せるわけがない。
しかし、こうなってしまうと、シンジのような無垢な人間は強いものだ。
ただ少女を探したいという一念だけで、シンジは密林を歩き続けた。
ただし、密林の歩き方など知っているわけがないから、
同じところをぐるぐると回っていたのが現実だったのだが。
ぐるぐるといっても、何もないところを小さく回っているわけではないから、
大きく円を描きながら、シンジはそれなりに移動はしている。
2時間も歩いただろうか…?
2時間歩いたということは、シンジの1か月分の歩行距離に匹敵している。
歩くのは自分の邸宅の中くらい。あとは車やエスカレーター、エレベーター等で移動するからだ。
学校にも行ってないから、強制的に体育で走ることもない。
逆に言えば、そういう状況下でよく肥満体にならなかったものである。
何はともあれ、そんな一心不乱に歩くシンジの耳に、水音が聞こえてきた。
そこで、シンジはその水音に向かって歩くことにしたのだ。
所謂けものみちだから、つまづいたり、木にぶつかったりしながら進んでいくと、
水音はシンジの邸宅の庭にある噴水のような音に変わってきた。
「近いぞ。あれ?あの声…歌…?」
水音に混じって、鼻歌が聴こえてきた。
「あの子かな?」
聞いたことのない歌だったが、その歌声はシンジの心を打った。
水音と歌声はますます近づき、シンジは逸る心を抑えつつ、草木をわけて進んだ。
「あ…」
突然、目の前の空間が緑色から水色に変わった。
そこには、3mほどの高さの滝があり、そこから流れる水が滝壷というよりも泉のような景観を見せている。
ただし、今、シンジの目にはそういうことは入ってこない。
彼の目は数メートル先の、この世に生を享けてから初めて見た、美しいものから離れることができなかったのである。
セカンドインパクトのために、前世紀までの世界的な美術品のほとんどは喪失されていた。
そのため大富豪の家に育つシンジでさえレプリカでしか見たことはなかったのだが、
そうした美術品より目の前にあるものを美しいとシンジは心から思った。
あの少女がそこにいた。
滝からの少量の流水を白い身体に受けている、その姿はギリシャ神話の女神を連想させた。
腰のあたりまである紅茶色の髪を水の流れに任せて、シンジに背をむけて水を浴びている。
シンジは…。シンジの名誉のために、一言申しておこう。
世の中の男性ならすっかり狼化してしまいそうなこの情景を見ながら、ただ呆然と見とれている少年・シンジ。
そう、彼は純正温室栽培されすぎているのである。
世間の同世代の少年の性知識の5%でもシンジが持っているかも疑問である。
恐ろしいことに、それは少女の方も同様だったのだ!
何の気なしに少女がシンジの方を振り返り、シンジと目が合ったその瞬間。
もちろんシンジは悪いことをしたという意識はまるでないため、ニコニコ笑いながら立っていただけ。
そして、少女は怒りもせずに、シンジに大声で怒鳴った。
「どうしたの?身体洗いたいなら、アンタもこっち来なさいよ!」
おいおい。
こいつらときたら、いったい何なんだ?
第3話 −終−
<あとがき>
第3話です。まだ、まだ、アスカは名乗ってません。この展開の遅さ、話の短さ。これこそ、いったい何なんだ?
男性の読者の方々、ジュンは非15禁作家です。そ〜いう展開にはなりません。
残念でしょうが、作家本人に書けないものはどうしようもありません。あ、因みにグロと戦闘シーンも苦手。
ジュブナイル。そうジュブナイルと割り切ってください。だって、バローズの『火星シリーズ』が目標なんですから。